なみだ雲がやってきた (’14)



悲しみに打ちひしがれて
ひとり 部屋に閉じこもり
来る日も来る日も泣いて泣いて
ずっと涙が止まらない
あれからいったいどれくらいの時が過ぎたのだろう
泣き疲れて眠っていたあるとき
ただならなぬ気配を感じて僕は目が覚めた
外を見ると奇妙な形をした雲の群れが
こっちに向かって押し寄せて来る

あれはなみだ雲だ
子供の頃に本で見たことがある
その雲から降り注ぐ雨を浴びると
心の中にあるどんな悲しみも洗い流し
流れ続けるなみだを止めてくれる
確かそんな伝説のある幻の雲だ
そのなみだ雲が
僕の街にやってきた!

僕は脱兎のごとく外へ飛び出し
なみだ雲の真下へと走り着いた
そして顔を上げ両手を広げて
滝のように流れ落ちる雨を全身で受け止めた
不思議と痛さは感じない
冷たいのに暖かい
僕はすべての力をふりしぼって
思いの丈を泣き叫んだ

「どうして どうして あの時僕は・・・
あんなことさえなければ良かったんだー!
お願いだ なみだ雲
この悲しみを洗い流してくれ!
このなみだを止めてくれ!
僕に生きる力を与えてくれー!」

いつの間にか僕は気を失っていた
ふと気づくとさっきの雨がうそのように
空は雲一つない澄み切った青空
でもなぜか地面に水たまりはなく
僕の体も全然濡れていなかった
(あのなみだ雲はやっぱり幻だったのか?)
いや違う 僕の頬になみだはもう流れていない
僕の瞳は輝きを取り戻していたのだ
(なみだ雲は本当に存在したんだ)
きっと僕のなみだを止めるために
やってきてくれたに違いない
これで明日からまた前を向いて歩いて行ける
これからはもう涙を流さなくていいんだ!
ありがとう なみだ雲
陽の光がとにかくまぶしかった

すると遠くから大勢の人が駆け寄ってくる
あっちからもこっちからも
いつしか僕の回りには
幾重にも人の輪が出来ていた
同級生や先生 部活の仲間
子どもの頃遊んだ幼なじみもいる
息を切らせたパン屋のおじさん
床屋のおばちゃんははさみを持ったままだ
「みんなどうして・・・」
不思議そうな僕に向かって一人が口を開いた
「今おまえの叫び声が聞こえたから・・・」
「僕の叫び声?」
「大丈夫か?ずっと心配していたよ」
みんなの顔を見渡すと
すべての眼差しがそう訴えているように見えた
(さっきの叫び声がみんなに聞こえていたのか?)
いやあの滝のような雨の中で叫んだ声が
遠くまで聞こえるはずはない
でもなぜかみんなの心には届いていたのだ
そしてその叫びを聞いてみんな僕のところに・・・

あの時から僕は心を閉ざし
ひとりで悲しみを抱え込み
「ほっといてくれ!」と言ったきり
みんなの言葉に耳を貸そうともしなかった
なのにこんなにもたくさんの人が
ずっと僕のことを思っていてくれたなんて・・・
(ごめん、みんな・・・ありがとう、みんな・・・)
そう気づいた瞬間
僕の瞳から再びなみだがあふれ出していた



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